人事のメンタルヘルス対応|ストレスチェック義務化と対策方法【産業医との連携】

人事担当者の業務において、従業員のメンタルヘルス対応は最重要課題の一つになりました。2015年のストレスチェック制度義務化以降、人事部門には法的義務の履行だけでなく、従業員の心の健康を守る予防的な取り組みが求められています。産業医との連携、従業員支援プログラム(EAP)の運用、休職・復職支援など、専門的な知識とスキルが必要な業務領域が拡大しています。
この記事では、人事のメンタルヘルス対応について、法的要件の理解から実務対応まで網羅的に解説します。ストレスチェック制度の実施方法、産業医や保健師との効果的な連携体制の構築、EAP導入のポイント、休職者の復職支援プロセスなど、現場で即活用できる実践的な情報をお届けします。
メンタルヘルス対応が人事の重要業務になった背景
働き方改革の推進やテレワークの普及など、労働環境が大きく変化する中で、職場におけるメンタルヘルス問題は深刻化しています。人事部門は単なる人事管理や給与計算といった従来の業務から、従業員の心の健康を守る専門的な対応が求められる時代になりました。
– [職場のメンタルヘルス問題の現状](#職場のメンタルヘルス問題の現状) – [2015年ストレスチェック義務化の経緯](#2015年ストレスチェック義務化の経緯) – [人事部門に求められる役割の変化](#人事部門に求められる役割の変化)
職場のメンタルヘルス問題の現状
厚生労働省の「労働安全衛生調査」によると、仕事や職業生活に関する強いストレスを感じている労働者の割合は約5割を超えています。精神障害による労災請求件数も年々増加傾向にあり、2022年度には過去最多を更新しました。メンタルヘルス不調による休職者数も増加しており、企業にとって看過できない経営課題となっています。
特に長時間労働やハラスメント、職場の人間関係、過度な業務負荷などがメンタルヘルス不調の主な要因として指摘されています。テレワークの普及により、コミュニケーション不足や孤立感といった新たなストレス要因も顕在化しました。このような状況下で、人事部門には従業員のメンタルヘルスを守るための組織的な対応が強く求められています。
2015年ストレスチェック義務化の経緯
メンタルヘルス問題への対応を強化するため、2015年12月に労働安全衛生法が改正され、従業員50人以上の事業場にストレスチェック制度の実施が義務化されました。この制度は、労働者自身のストレス状況への気づきを促すとともに、職場環境の改善につなげることで、メンタルヘルス不調を未然に防止することを目的としています。
法改正の背景には、精神障害による労災認定件数の増加や、自殺者数の高止まりといった深刻な社会問題がありました。企業には年1回のストレスチェック実施と、その結果に基づく高ストレス者への医師による面接指導の実施が義務づけられ、労働基準監督署への実施報告も必要となりました。これにより、メンタルヘルス対策は人事部門の中核的な業務として位置づけられることになったのです。
人事部門に求められる役割の変化
従来の人事業務は、採用・配置・評価・給与計算といった労務管理が中心でしたが、現在ではメンタルヘルス対策という専門性の高い領域が加わりました。ストレスチェックの企画・実施、産業医との連携調整、休職者の復職支援、メンタルヘルス研修の企画など、心理学や医学の知識が求められる場面も増えています。人事担当者には、法令遵守だけでなく、従業員一人ひとりの心の健康を守るという重要な責任が課されているのです。
ストレスチェック制度の法的知識と実施方法
ストレスチェック制度は、労働安全衛生法に基づく法定義務です。人事担当者は制度の法的要件を正確に理解し、適切に実施する必要があります。ここでは、法的要件の詳細から実施手順、集団分析の活用方法、よくある課題への対処法まで、実務に必要な知識を網羅的に解説します。
– [ストレスチェック制度の法的要件](#ストレスチェック制度の法的要件) – [ストレスチェックの実施手順](#ストレスチェックの実施手順) – [集団分析の活用方法](#集団分析の活用方法) – [ストレスチェック実施でよくある課題](#ストレスチェック実施でよくある課題)
ストレスチェック制度の法的要件
ストレスチェック制度の実施には、労働安全衛生法で定められた明確な要件があります。対象企業の範囲、実施頻度、報告義務、プライバシー保護など、法的に遵守すべきポイントを正確に把握しておく必要があります。
対象となる企業と従業員
ストレスチェックの実施が義務づけられるのは、常時使用する労働者数が50人以上の事業場です。ここでいう「事業場」とは、本社・支店・工場など、場所的に独立した単位を指します。全社で50人以上でも、各事業場が50人未満であれば義務対象外となります。対象となる労働者は、正社員だけでなく、契約社員や派遣社員など、一定の要件を満たす全ての労働者が含まれます。具体的には、週の所定労働時間が正社員の4分の3以上で、契約期間が1年以上の労働者が対象です。
実施義務と報告義務
ストレスチェックは年1回以上の実施が義務づけられています。実施時期は企業が任意で決定できますが、多くの企業は健康診断と同時期に実施しています。実施後は、労働基準監督署に「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」を提出する必要があります。この報告書には、検査を実施した人数や高ストレス者の人数などの統計情報を記載しますが、個人が特定される情報は含めません。報告を怠った場合や虚偽の報告をした場合には、50万円以下の罰金が科される可能性があります。
プライバシー保護の義務
ストレスチェックの結果は、労働者本人の同意なしに事業者(人事権を持つ者)が把握することは法律で禁じられています。検査結果は実施者から直接本人に通知され、本人の同意を得ない限り、人事担当者や上司が閲覧することはできません。このプライバシー保護規定に違反した場合、刑事罰の対象となる可能性があります。人事担当者は、検査の実施事務(日程調整や受検票の配布など)に従事することはできますが、個人の検査結果には一切アクセスできないよう、厳格な情報管理体制を構築する必要があります。
ストレスチェックの実施手順
ストレスチェックを適切に実施するには、事前準備から結果のフォローアップまで、一連の手順を正確に踏む必要があります。実施体制の構築、質問票の選定、結果通知、高ストレス者への面接指導など、各段階でのポイントを解説します。
実施体制の構築(実施者・実施事務従事者の選定)
ストレスチェックの実施体制には、「実施者」と「実施事務従事者」の2つの役割があります。実施者は医師、保健師、または厚生労働省が定める研修を修了した看護師・精神保健福祉士が担当し、検査の企画から結果の評価まで専門的な判断を行います。多くの企業では産業医が実施者となります。一方、実施事務従事者は人事担当者が担当できますが、人事権を持つ者(部長職以上など)は就任できません。実施事務従事者は検査の実施事務(日程調整、受検票配布、回収など)を行いますが、個人の検査結果にはアクセスできないよう、守秘義務が課されています。
質問票の選定と実施方法
ストレスチェックの質問票は、厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」を使用するのが一般的です。この質問票は、仕事のストレス要因、心身のストレス反応、周囲のサポートの3領域から構成されています。企業の状況に応じて、より詳細な80項目版や、簡易的な23項目版を選択することも可能です。実施方法は、Webシステムを利用するオンライン方式と、紙の質問票を配布する方式があります。テレワーク社員が多い企業ではWeb実施が効率的ですが、ITリテラシーが低い従業員が多い場合は紙での実施も検討します。
結果の通知と高ストレス者への面接指導
ストレスチェックの結果は、実施者から直接労働者本人に通知されます。結果通知には、ストレスの程度を示すレーダーチャートや点数、高ストレス者に該当するかどうかの判定が含まれます。高ストレス者と判定された労働者のうち、医師による面接指導を希望する者は、企業に申し出ることができます。企業は申し出を受けた場合、1か月以内に産業医などによる面接指導を実施しなければなりません。面接では、勤務状況や心身の状況を確認し、必要に応じて就業上の措置(労働時間の短縮、配置転換など)について医師が意見を述べ、企業はその意見を尊重して適切な措置を講じる必要があります。
集団分析の活用方法
ストレスチェックの集団分析は、職場環境改善の重要な手がかりとなります。部署ごとや年齢層ごとなど、一定規模(通常10人以上)の集団単位で、ストレスの状況を分析し、職場環境の問題点を可視化します。例えば、特定の部署で「仕事の量的負担」が高い場合、業務配分の見直しが必要かもしれません。「上司のサポート」が低い部署では、管理職向けのマネジメント研修が効果的です。
集団分析の結果は、衛生委員会で報告し、職場環境改善の具体策を検討します。人事担当者は、産業医や管理職と協力して、ストレス要因を低減するための施策(業務プロセスの見直し、コミュニケーション機会の増加、労働時間管理の強化など)を立案・実施します。集団分析は義務ではありませんが、職場環境改善のための貴重なデータであり、積極的に活用すべきです。
ストレスチェック実施でよくある課題
ストレスチェック実施で人事担当者が直面する課題として、受検率の向上、高ストレス者の面接申し出率の低さ、費用負担の3つが挙げられます。受検率を向上させるには、経営層からのメッセージ発信、受検期間の十分な確保、未受検者への個別リマインドが効果的です。高ストレス者の面接申し出率が低い理由は、「不利益な扱いを受けるのではないか」という不安です。面接指導を申し出ても人事評価に影響しないことを明確に周知し、相談しやすい雰囲気づくりが重要です。
費用面では、外部委託する場合は従業員1人あたり500円〜1,000円程度が相場です。産業医契約にストレスチェック実施を含めることで、コストを抑えられる場合もあります。厚生労働省の「ストレスチェック実施プログラム」を利用すれば、無料で実施できますが、集計作業などは自社で行う必要があります。予算とリソースを考慮して、最適な実施方法を選択しましょう。
産業医・保健師との効果的な連携方法
メンタルヘルス対策を効果的に推進するには、産業医や保健師との連携が不可欠です。人事担当者が橋渡し役となり、医療専門職と職場をつなぐ体制を構築することで、従業員の健康管理が大きく向上します。ここでは、産業医の役割から具体的な連携方法、外部専門機関の活用まで解説します。
– [産業医の役割と選任義務](#産業医の役割と選任義務) – [産業医との連携体制の構築](#産業医との連携体制の構築) – [保健師・看護師との協働](#保健師看護師との協働) – [外部専門機関の活用](#外部専門機関の活用)
産業医の役割と選任義務
産業医は、労働者の健康管理を専門的立場から支援する医師です。常時使用する労働者が50人以上の事業場では、産業医の選任が義務づけられています。産業医の主な職務は、健康診断やストレスチェックの実施、長時間労働者への面接指導、職場巡視による作業環境の確認、衛生委員会への参加などです。
メンタルヘルス対応においては、ストレスチェックの実施者としての役割、高ストレス者や休職者との面談、復職判定、職場環境改善への助言など、重要な役割を担います。産業医は月1回以上の訪問が基本ですが、企業の規模や状況に応じて訪問頻度を調整します。人事担当者は、産業医が効果的に職務を遂行できるよう、従業員の健康情報や労働時間データを適切に提供し、連携体制を整える必要があります。
産業医との連携体制の構築
産業医との効果的な連携には、定期的な情報共有と明確な役割分担が重要です。人事担当者は産業医と職場をつなぐ橋渡し役として、従業員の健康情報を適切に管理し、産業医が必要とする情報をタイムリーに提供します。
定例会議・衛生委員会の運営
衛生委員会は、労働者の健康障害防止や健康保持増進を審議する場として、月1回以上の開催が義務づけられています。委員会には産業医が参加し、ストレスチェック結果の報告、職場環境改善策の検討、メンタルヘルス不調者の発生状況(個人が特定されない形で)などを議論します。人事担当者は議事録を作成し、決定事項を経営層や各部署に展開します。また、産業医訪問時には、人事部門との定例ミーティングを設け、個別の健康相談案件や休職者の状況について情報共有を行います。
従業員からの相談窓口の設置
従業員が産業医に相談しやすい環境を整備することも、人事担当者の重要な役割です。産業医面談の予約システムを構築し、従業員が直接申し込める仕組みを用意します。予約は人事担当者を経由せず、産業医や保健師に直接連絡できる方法が望ましいです。社内イントラネットや専用メールアドレスを設け、匿名での相談も可能にすることで、心理的ハードルを下げます。また、産業医面談は業務時間内に実施し、相談したことで不利益な扱いを受けないことを周知します。
労働時間情報の共有
長時間労働は、メンタルヘルス不調の大きなリスク要因です。労働安全衛生法では、月80時間超の時間外労働を行った労働者から申し出があった場合、医師による面接指導を実施する義務があります。人事担当者は、勤怠管理システムから長時間労働者のリストを定期的に抽出し、産業医に情報提供します。産業医は労働時間情報をもとに、面接指導が必要な従業員を判断し、人事担当者を通じて本人に面接を案内します。このプロセスを円滑に運用するため、勤怠データの共有フローを事前に確立しておくことが重要です。
保健師・看護師との協働
企業規模によっては、産業医とともに保健師や看護師を配置している場合があります。保健師・看護師は、日常的な健康相談の窓口として、従業員が気軽に相談できる存在です。メンタルヘルスに関する軽微な相談や、産業医面談の前段階でのスクリーニング、休職者との定期的な連絡など、きめ細かな対応が可能です。
人事担当者は、保健師・看護師と密に連携し、従業員の健康状態に関する情報を共有します。保健師が「専門的な医療判断が必要」と判断したケースは産業医につなぎ、「職場環境の調整が必要」と判断したケースは人事部門や管理職と連携して対応します。このように、産業医・保健師・人事担当者が三位一体となって、重層的な支援体制を構築することが理想的です。
外部専門機関の活用
自社で産業医や保健師を確保できない企業や、より専門的なサポートが必要な場合は、外部専門機関を活用する方法があります。産業医紹介サービスは、企業のニーズに合った産業医を紹介し、訪問頻度や契約形態を柔軟に設定できます。また、メンタルヘルス対策に特化したEAP(従業員支援プログラム)事業者は、カウンセリングサービスや研修プログラムを提供します。
外部機関を活用する際のポイントは、自社の課題を明確にし、必要なサービス内容を具体的に伝えることです。例えば、「ストレスチェックの実施とフォローアップ」「休職者の復職支援」「管理職向けメンタルヘルス研修」など、具体的な要望を提示することで、最適なサービスを選定できます。人事担当者は、外部機関と社内の橋渡し役として、スムーズな連携を実現する役割を担います。
従業員支援プログラム(EAP)の導入と運用
EAP(Employee Assistance Program)は、従業員のメンタルヘルスや生活上の問題を専門家がサポートする外部サービスです。社内では相談しにくい悩みも、第三者である外部カウンセラーになら話しやすいという利点があります。ここでは、EAPの概要から導入メリット、事業者選定のポイント、効果的な運用方法まで解説します。
– [EAPとは?導入のメリット](#eapとは導入のメリット) – [EAP事業者の選定ポイント](#eap事業者の選定ポイント) – [EAP導入後の運用と周知](#eap導入後の運用と周知)
EAPとは?導入のメリット
EAPは、従業員が抱えるメンタルヘルスの問題や、仕事・家族・経済的な悩みについて、専門のカウンセラーに相談できる外部サービスです。電話やメール、対面、Webでのカウンセリングなど、多様な相談チャネルを提供しており、24時間365日対応のサービスもあります。
企業側のメリットとしては、メンタルヘルス不調の早期発見と予防、休職者の減少、従業員満足度の向上、離職率の低下などが挙げられます。外部の専門機関が対応するため、人事担当者の負担軽減にもつながります。従業員側のメリットは、社内に知られることなく専門家に相談できる安心感、いつでも相談できるアクセスの良さ、カウンセラーの専門性による適切なアドバイスです。EAPは、産業医や社内相談窓口では対応しきれない領域をカバーする、重要な支援ツールといえます。
EAP事業者の選定ポイント
EAP事業者を選定する際は、サービス内容、カウンセラーの質、費用体系を総合的に比較検討する必要があります。企業規模や従業員の働き方に合ったサービスを選ぶことが、効果的な運用の鍵となります。
提供サービスの種類(電話・対面・Web)
相談チャネルの多様性は、従業員の利用しやすさに直結します。電話相談は匿名性が高く気軽に利用でき、対面カウンセリングは深刻な悩みに対応しやすいという利点があります。Webやチャットでの相談は、若年層や文字でのコミュニケーションを好む従業員に適しています。24時間対応の有無も重要なポイントです。シフト勤務や夜勤のある企業では、夜間・休日も相談できるサービスが必要です。また、全国に対面カウンセリング拠点があるか、オンラインカウンセリングに対応しているかも確認しましょう。
カウンセラーの専門性と質
カウンセラーの質は、EAPの効果を左右する最重要要素です。臨床心理士や公認心理師などの国家資格保有者が対応しているか、カウンセラーの経験年数や専門分野を確認します。メンタルヘルスだけでなく、ハラスメントや介護、金銭問題など、幅広い相談内容に対応できる専門家がいるかもポイントです。カウンセラーの対応品質を維持するための、事業者側の研修体制やスーパービジョン制度についても質問しましょう。
費用体系と契約形態
EAPの費用は、従業員1人あたり月額300円〜800円程度が相場です。契約形態は、全従業員を対象とする定額制と、実際に相談があった件数に応じて課金される従量制があります。利用実績が見込めない初期段階では従量制、利用が定着してきたら定額制に切り替えるという方法も有効です。また、相談回数の上限(年間何回まで無料など)も確認しましょう。予算とサービス内容のバランスを考慮し、複数の事業者から見積もりを取って比較検討することをおすすめします。
EAP導入後の運用と周知
EAPを導入しても、従業員に認知されなければ利用されません。人事担当者は、積極的な周知活動と利用促進策を実施する必要があります。導入時には、全従業員向けの説明会を開催し、利用方法や守秘義務の徹底を説明します。社内イントラネット、社内報、ポスター掲示など、複数の媒体で繰り返し周知することが重要です。
利用促進のポイントは、「気軽に相談できる」という雰囲気づくりです。「深刻な悩みがある人だけのサービス」ではなく、「ちょっとした悩みも相談できる」というメッセージを発信します。また、EAP事業者から提供される利用統計レポート(個人情報を含まない集計データ)を分析し、相談内容の傾向や利用率を把握します。利用率が低い場合は、周知方法の見直しや、従業員アンケートで利用しにくい理由を調査し、改善策を講じましょう。定期的に利用促進キャンペーンを実施することも効果的です。
メンタルヘルス不調者の休職・復職支援
メンタルヘルス不調により休職する従業員への適切な対応は、人事担当者にとって難易度の高い業務です。休職制度の整備、休職開始時の手続き、休職期間中のコミュニケーション、復職判定、復職後のフォローアップまで、一連のプロセスを丁寧に実施する必要があります。
– [休職制度の整備と就業規則](#休職制度の整備と就業規則) – [休職開始時の手続きと対応](#休職開始時の手続きと対応) – [復職判定と復職支援プログラム](#復職判定と復職支援プログラム) – [復職失敗・再休職を防ぐポイント](#復職失敗再休職を防ぐポイント)
休職制度の整備と就業規則
休職制度を適切に運用するには、就業規則に明確なルールを定めておく必要があります。休職期間(勤続年数に応じた設定が一般的)、休職中の給与支給の有無、休職の延長条件、復職の判断基準、休職期間満了時の取り扱い(自然退職または解雇)などを明記します。
休職中の給与については、法律上の支給義務はありませんが、企業によっては一定期間(例:最初の3か月間)は一部支給する場合もあります。従業員には、健康保険の傷病手当金(給与の約3分の2相当額を最長1年6か月間支給)を案内し、申請手続きをサポートします。また、休職期間中の社会保険料の取り扱い(企業負担分・本人負担分の支払い方法)についても、事前に明確にしておくことが重要です。休職制度を整備する際は、社会保険労務士などの専門家に相談し、法令に適合した内容にすることをおすすめします。
休職開始時の手続きと対応
休職開始時の対応は、本人の療養と円滑な復職に向けた重要なステップです。診断書の確認、本人・家族との面談、休職期間中のコミュニケーション方法の取り決めなど、丁寧に進める必要があります。
診断書の確認ポイント
従業員から休職の申し出があった際は、主治医の診断書を提出してもらいます。診断書には、病名、治療内容、休職の必要性、休職期間の見込みが記載されているかを確認します。診断書の内容が不明確な場合や、休職期間が妥当かどうか判断が難しい場合は、産業医に意見を求めます。産業医は、主治医の診断書をもとに、業務遂行能力の観点から休職の必要性を判断し、人事部門に助言します。診断書は個人情報として厳重に管理し、本人の同意なく第三者に開示してはいけません。
本人・家族との面談
休職開始前には、本人と面談を行い、休職制度の説明、傷病手当金などの経済的支援、休職期間中の連絡方法について丁寧に説明します。「ゆっくり療養に専念してください」と声をかけ、復職を焦らせないよう配慮します。可能であれば家族とも面談し、療養に専念できる環境づくりへの協力を依頼します。休職期間中の連絡は、月1回程度の定期連絡を基本とし、本人に負担をかけないよう配慮します。連絡方法(電話、メール、郵送など)は本人の希望を確認しましょう。
休職期間中のコミュニケーション
休職期間中は、月1回程度の定期連絡で状況を確認します。「調子はいかがですか」「何か困っていることはありませんか」といった声かけにとどめ、仕事の話題や復職の時期について過度にプレッシャーをかけないよう注意します。本人から復職の意向が示された際は、まず主治医の「復職可能」の診断書を取得してもらい、その後、産業医との復職面談を設定します。復職判定には時間がかかる場合もあるため、余裕を持ったスケジュールで進めることが大切です。
復職判定と復職支援プログラム
復職の可否判断は、主治医と産業医の意見を総合的に判断して行います。焦って復職させると再発のリスクが高まるため、慎重な判定が必要です。また、復職後は段階的に業務負荷を増やすリハビリ出勤制度や、定期的なフォローアップ面談を実施します。
主治医と産業医の意見調整
主治医は患者の治療経過や症状の改善を重視しますが、職場での業務遂行能力まで詳しく把握しているとは限りません。一方、産業医は職場環境や業務内容を理解した上で、復職可否を判断します。主治医から「復職可能」の診断書が出ても、産業医が面談の結果「まだ復職は難しい」と判断することもあります。この場合、人事担当者は両者の意見を調整し、本人にも丁寧に説明します。復職判定の際は、「通常の業務を遂行できるか」「通勤ラッシュに耐えられるか」「対人関係のストレスに対処できるか」といった実務的な観点から判断することが重要です。
リハビリ出勤・試し出勤制度
いきなりフルタイム勤務に戻すのではなく、短時間勤務や軽作業から開始するリハビリ出勤制度を活用します。例えば、最初の2週間は午前中のみ出勤、次の2週間は通常時間で出勤するが残業なし、その後徐々に通常業務に戻すといった段階的なプランを立てます。リハビリ出勤期間中は、人事担当者や上司が定期的に本人の様子を確認し、産業医にも報告します。無理なく復職できるよう、柔軟に計画を調整することが成功のポイントです。
復職後のフォローアップ
復職後も定期的なフォローアップが重要です。復職後1か月、3か月、6か月のタイミングで、人事担当者や産業医が本人と面談し、体調や業務負荷の状況を確認します。上司からも業務遂行状況や職場での様子を聞き取り、問題があれば早期に対応します。復職後は「頑張りすぎてしまう」傾向があるため、「無理をしないように」と声をかけ、残業時間の制限や業務量の調整を継続します。再発の兆候が見られた場合は、速やかに産業医に相談し、早期対応を心がけましょう。
復職失敗・再休職を防ぐポイント
復職後に再休職してしまうケースは少なくありません。再休職を防ぐには、焦らせないこと、職場環境を調整すること、上司への教育が重要です。本人が「早く元通りに働きたい」と焦っても、人事担当者や産業医が客観的に判断し、無理のないペースを維持します。また、休職の原因となった職場環境(長時間労働、ハラスメント、過度な業務負荷など)を改善しなければ、再発は避けられません。
上司には、復職者への接し方を事前に指導します。「体調は大丈夫?」といった声かけ、無理をさせない業務配分、定期的な1on1ミーティングなど、具体的なサポート方法を伝えます。周囲の同僚にも、復職者を温かく迎え入れる雰囲気づくりを依頼します。復職支援は、人事担当者、産業医、上司、同僚がチームとなって取り組むことが成功の鍵です。
メンタルヘルス不調の予防と早期発見
メンタルヘルス対策で最も重要なのは、不調を未然に防ぐ予防策と、早期発見・早期対応です。厚生労働省が推奨する「4つのケア」の枠組みに基づき、組織的な予防体制を構築します。また、管理職向け研修や早期発見のためのサイン把握など、実践的な取り組みを解説します。
– [4つのケアによる予防体制](#4つのケアによる予防体制) – [管理職向けメンタルヘルス研修の実施](#管理職向けメンタルヘルス研修の実施) – [早期発見のためのサインと対応](#早期発見のためのサインと対応)
4つのケアによる予防体制
厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、メンタルヘルスケアを4つの階層で実施することを推奨しています。セルフケア(従業員自身によるケア)、ラインケア(管理職によるケア)、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケアです。人事担当者は、これら4つのケアが有機的に連携するよう、体制を整備する役割を担います。
セルフケア(従業員自身)
セルフケアは、従業員自身がストレスに気づき、対処する能力を高めることです。人事部門は、セルフケア研修やeラーニングを実施し、ストレスの原因や症状、対処法(リラクゼーション、運動、睡眠の確保など)を教育します。また、ストレスチェックの結果を自身の健康管理に活用するよう促します。セルフチェックツールや相談窓口の情報を定期的に周知し、従業員が自発的にメンタルヘルスケアに取り組める環境を整えます。
ラインケア(管理職)
ラインケアは、管理職が部下の変化に気づき、適切に対応することです。管理職は日常的に部下と接しているため、いつもと違う様子(遅刻・欠勤の増加、表情の変化、ミスの増加など)に気づきやすい立場にあります。人事部門は、管理職向けにラインケア研修を実施し、部下の変化への気づき方、声のかけ方、産業医や人事部門への繋ぎ方を指導します。また、部下が相談しやすい職場環境づくり(1on1ミーティングの定期実施、心理的安全性の確保)も重要です。
事業場内・外資源の活用
事業場内の産業保健スタッフ(産業医、保健師、人事担当者)は、ストレスチェックの実施、健康相談、職場環境改善の提案などを行います。人事担当者は、産業医や保健師と連携し、従業員が専門家に相談しやすい体制を整えます。事業場外資源としては、EAPサービス、精神科・心療内科の医療機関、地域の保健所・精神保健福祉センターなどがあります。これらの外部資源を適切に活用し、社内では対応しきれない専門的なケアを補完します。
管理職向けメンタルヘルス研修の実施
ラインケアを実効性のあるものにするには、管理職向けの研修が不可欠です。研修内容は、メンタルヘルスの基礎知識、部下の変化への気づき方、声かけの具体例、傾聴スキル、産業医や人事への繋ぎ方などです。ロールプレイや事例検討を取り入れることで、実践的なスキルを習得できます。
研修では、「メンタルヘルス不調は誰にでも起こりうる」という認識を持たせ、偏見や差別をなくすことも重要です。また、管理職自身のメンタルヘルスケアについても扱い、ストレスを抱え込まずに相談することを奨励します。研修は新任管理職向けの初任研修と、定期的なフォローアップ研修を組み合わせ、継続的な学習機会を提供しましょう。外部講師(産業医、臨床心理士など)を招くことで、専門性の高い内容を学べます。
早期発見のためのサインと対応
メンタルヘルス不調の早期発見には、行動変化のサインを見逃さないことが重要です。代表的なサインとして、遅刻や欠勤の増加、表情が暗くなる、会話が減る、仕事のミスが増える、身だしなみの乱れ、感情の起伏が激しくなるなどがあります。これらの変化に気づいたら、管理職や同僚は本人に声をかけます。
声かけのポイントは、「最近、顔色が良くないけど、大丈夫?」「何か困っていることはない?」といった、非難や詮索ではなく、心配していることを伝える言葉です。本人が話したくない様子であれば無理に聞き出さず、「いつでも相談に乗るよ」と伝えます。深刻な状態が疑われる場合は、管理職から人事部門に連絡し、産業医面談を提案します。早期発見・早期対応により、深刻化する前に適切な支援につなげることができます。人事担当者は、管理職や従業員が気軽に相談できる窓口として、日頃から信頼関係を構築しておくことが大切です。
人事が直面するメンタルヘルス対応の課題
メンタルヘルス対応を進める中で、人事担当者は様々な課題に直面します。専門知識の不足、経営層の理解不足、プライバシー保護と情報共有のバランスなど、実務上の悩みは尽きません。ここでは、よくある課題とその解決策を紹介します。
– [専門知識不足とスキルアップの方法](#専門知識不足とスキルアップの方法) – [経営層の理解を得る方法](#経営層の理解を得る方法) – [プライバシー保護と情報共有のバランス](#プライバシー保護と情報共有のバランス)
専門知識不足とスキルアップの方法
メンタルヘルス対応には、心理学や精神医学の知識が求められる場面が多く、人事担当者が「自分には専門知識が足りない」と感じるのは自然なことです。スキルアップの方法として、メンタルヘルス・マネジメント検定(Ⅰ種・Ⅱ種・Ⅲ種)の取得があります。この検定は、メンタルヘルスケアの基礎知識から実務対応まで体系的に学べます。
また、厚生労働省や労働局が開催する無料セミナー、産業保健総合支援センターの研修、民間企業が提供する有料研修などを活用しましょう。産業医や臨床心理士など、社内外の専門家に積極的に質問し、OJTで学ぶことも有効です。メンタルヘルス対応の事例を蓄積し、社内でノウハウを共有することで、組織全体の対応力が向上します。完璧な知識を持つ必要はなく、専門家と連携しながら対応することが重要です。
経営層の理解を得る方法
メンタルヘルス対策への投資に対して、経営層の理解が得られないという悩みもよく聞かれます。経営層を説得するには、数字で効果を示すことが有効です。メンタルヘルス不調による休職者が1人出た場合、採用・育成コスト、代替要員の確保、生産性低下などで企業が被る損失は数百万円にのぼるというデータもあります。
具体的には、「現在の休職者数と復職率」「ストレスチェックの高ストレス者割合の推移」「EAP導入による相談件数と予防効果」などを定量的に報告します。また、労働安全衛生法違反による罰則リスクや、メンタルヘルス問題による労災認定リスクを説明することも効果的です。「従業員の健康を守ることは企業の社会的責任であり、採用ブランディングにもつながる」という視点で、経営層に投資の必要性を訴えましょう。
プライバシー保護と情報共有のバランス
メンタルヘルス対応では、本人のプライバシーを保護しながら、必要な関係者(産業医、上司、人事部門)と情報を共有するバランスが難しいという課題があります。基本原則は、本人の同意を得た上で、必要最小限の情報のみを共有することです。ストレスチェック結果や産業医面談の内容は、本人の同意なしに上司や人事部門に開示してはいけません。
一方、休職や復職の手続きでは、上司や人事部門が関与する必要があります。この場合も、病名などの詳細な医療情報は伝えず、「休職が必要」「復職可能だが短時間勤務から開始」といった業務遂行に関わる情報のみを共有します。情報共有の範囲や方法については、産業医と相談しながら決定し、本人にも丁寧に説明して理解を得ることが重要です。
まとめ:人事のメンタルヘルス対応で成果を出すために
人事のメンタルヘルス対応は、法的義務の履行にとどまらず、従業員一人ひとりの心の健康を守る重要な使命です。ストレスチェック制度の適切な実施、産業医や保健師との連携体制の構築、EAPの効果的な運用、休職者への丁寧な復職支援、そして予防と早期発見の取り組み。これらすべてが、従業員が安心して働ける職場環境を作るための基盤となります。
専門知識が完璧でなくても、産業医や外部専門機関と連携しながら、一つひとつの課題に誠実に向き合うことが大切です。経営層の理解を得て、組織全体でメンタルヘルス対策に取り組む文化を醸成しましょう。人事担当者の皆さんが、この記事の情報を活用し、従業員の健康と企業の持続的な成長に貢献されることを願っています。
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